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旅の本 危ない飛行機が今日も飛んでいる

 こどもの頃、飛行機に乗るのが怖かった。一たび、飛行機事故が起これば、高度一万メートルから真っ逆さま。乗客乗員全員死亡というイメージが、ただただ怖かった。小学生時代に利口者のいとこにそんな話しをして、「飛行機に乗るより、オマエの家のお父さんが運転するクルマで高速道路を走る方が確率的には危険だ。」と訳知り顔に言われても、今いちピンとこなかった(事故による死亡率を距離から導きだすとそんな結果になるのかもしれない。自家用車の方が、民間の定期運航旅客機より運用距離が著しく短い)。

 今年の2月5日、スカイマーク羽田発福岡行き017便で、運航開始前に機長が、緊急時のアナウンス等に支障があると判断し、風邪のため十分に声が出ない客室乗務員の交代を求めたところ、スカイマークの西久保社長と井手会長は機長の判断を否定。そのまま運航するように命じ、安全を理由にそれを拒否した機長の方を飛行機から降ろし、別の機長に交代させた上で、同日中に同機長との契約を解除した。という国土交通省航空局の発表に基づく報道を読みこの本のことを思い出した。
 今回、紹介するこの本は、1999年に出た本だが、いまだに新品の本が書店で手に入る。この本の結論を一言でいえば、「旅客機」、「航空会社」、「空港」は、どれも安全性が同じではないということである。燃費の良い飛行機と、燃費の悪い飛行機があるように、安全な飛行機とそうではない飛行機があり、航空会社や空港も安全なところとそうでもないところもあるということである。飛行機に乗る人は、それを知ったうえで、自分で判断をし、時には声を上げろということが書かれている。
 著者のメアリー・スキアヴォ氏は、1990年〜1996年の期間、アメリカ運輸省の監察総監として、航空行政の最前線にいた人物で、自身もライセンスを持つパイロットでもある。バリバリのインサイダーが書いた本書について、ワシントン・ポストは「より安全な飛行機旅行をするために知っておくべきことすべて教えてくれる」という謳い文句に恥じない本である。と書評したという。航空会社のコスト削減策の多くが、航空機の安全性に害を及ぼすと考える著者による、現在では称賛の的で世界の航空会社経営の手本の一つ『サウスウエスト航空』に対する厳しい指摘など、出版後10年以上の時の流れを感じる記述も少なくないが、基本的な内容は全く色あせていない。飛行機が嫌いな人も、好きな人も、飛行機に乗って旅行する機会があるのならば読んでおいて損はない本である。上下巻2冊に分かれる本書の目次を見ると、旅行者にとって実践的な内容が書かれた下巻だけで十分と感じるかもしれないが、定時運行とコストの関係、その行き過ぎた追求による経営サイドから現場へのプレッシャーなど、航空界の内幕が書かれる上巻を読み、下巻に読み進むことをお勧めする。
 あなたもこの本を読み終えれば、天候不順でフライトキャンセルになって、空港のチェックインカウンターで地上職員に悪態をつくことも、離陸に向けタキシング中(地上走行中)、機長から「機材点検のため、空港ターミナルに引き返す」とアナウンスがあっても、他の乗客と一緒になってブーイングをすることもなくなる。皮肉ではなく、逆に航空会社とそのスタッフによる安全への配慮に感謝するようになることは間違いない。
 旅行者としての徳と気品を高める必読の一冊とも言える。

外部リンク

スカイマーク社における安全管理上の不適切な対応について 国土交通省
http://www.mlit.go.jp/koku/cab10_hh_000022.html

危ない飛行機が今日も飛んでいる(上) 目次

  • 序章 ヴァリュージェット機の大惨事
  • 第1章 連邦航空局は誰のために働いているのか?
  • 第2章 明々白々な事実
  • 第3章 死者が出てから行動を起こす
  • 第4章 例によって例のごとし
  • 第5章 偽造部品は見て見ぬふりをせよ
  • 第6章 空港税は何に使われているのか?
  • 第7章 着陸が一番のスリル

危ない飛行機が今日も飛んでいる(下) 目次

  • 第8章 メーカーを監督しているのは誰なのか?
  • 第9章 安全よりも大事なこと
  • 第10章 危ない飛行機、安全な飛行機
  • 経年機とは?
  • 機齢二十年以上は避けよう
  • いかにすばやく脱出するか?
  • 一番近い出口は?
  • いわくつきの飛行機
  • 要警戒の飛行機
  • 結論
  • 第11章 どの航空会社が安全か?
  • あなたが座席でくつろいでいるとき、航空会社は何をしているか?
  • 航空会社の安全性についてあなたが知らないこと
  • 事故/インシデント数
  • 名前がどうだって言うの?
  • ナショナル・キャリア、リージョナル・キャリア、コミューター航空
  • 規制緩和の落し子
  • 事故原因
  • 世界最悪の事故
  • 運航停止などの処分を受けたことのある航空会社
  • 要注意リストから外された会社
  • パイロットの給料と経験
  • 安全管理の不十分な諸外国
  • 条件つき、もしくは評価の低い国の航空会社とのコードシェアリング
  • 世界の航空会社のランキング
  • 世界の航空会社を利用する際の一般的な注意
  • テロ行為
  • 経営難の航空会社
  • 結論-常識を働かせて判断しよう
  • 第12章 危ない空港、安全な空港
  • パイロットがいやがる空港
  • ウィンド・シアと空港
  • 空港警備
  • プロファイリング
  • 管制塔の停電
  • 第13章 姿勢を正して権利を訴える
  • 一番安全な座席
  • 子ども連れのフライト
  • 救命胴衣
  • 子どもだけのフライト
  • 身体障害者のフライト
  • 防煙フード
  • 保安検査
  • 飛行機および航空会社の変更とコードシェアリング
  • 飛行機から降りる
  • 医療器具
  • 口に出して訴える
  • 第14章 機内は清潔か?
  • 客室の空気
  • 殺虫剤
  • ペット
  • 水を飲んではいけない
  • 機内はどれくらい清潔か?
  • 酒を飲みすぎた乗客
  • 第15章 悪天候のときに注意すべきこと
  • 氷霧、密度高度、ふつうの雨
  • 吹雪
  • 雷雨
  • 晴天乱気流
  • 第16章 口を封じられたお目付け役
  • 終章 本当に改革したいと思うなら…
  • 解説 杉浦一機

旅の本 バックナンバー

危ない飛行機が今日も飛んでいる(上)表紙

bookデータ
危ない飛行機が今日も飛んでいる(上)(下)
Flying Blind, Flying Safe
メアリー・スキアヴォ 著
杉谷弘子 訳
杉浦一機 翻訳監修
草思社
定価 上下巻各1600円税別
ISBN 4-7942-0890-1