サイト内検索
寒山落木一 表紙

デスクトップトラベル 子規の旅

正岡子規の俳句を子規直筆の原稿で味わうショートタイムトリップ。

寒山落木四

このページの句をメールで送信する

明治28年

小春 こはる

電信に雀の並ぶ小春かな

山門に鹿干す奈良の小春かな

廻廓に銭の落ちたる小春かな

山底に世と断つ村も小春かな

痩村に鳶舞ひ落つる小春哉

黒船に伝馬のたかる小春かな

唐橋にむく犬眠る小春かな

雲に近く行くや小春の真帆片帆

痩村に見ゆや小春の凧

病む人の病む人をとふ小春哉

うるさしや小春の蝿の顔につく

病後二句

蜻蛉に馴るゝ小春の端居哉

あけ放す窓は上野の小春哉

春の暮より入院し居る虚空子のもとに遣はす

いたはしや花のなやみの小春まで

近衛師団凱旋

うれしくば開け小春の桜花

病中

寝るやうつゝ小春の蝶の影許り

小六月 ころくがつ

日影さす人形店や小六月

牛の子や売られて遊ぶ小六月

新嘗祭

新米に菊の香もあれ小六月

神無月 かんなづき

馬鹿になる禰宜尊しや神無月

十月 じゅうがつ

十月の海は凪いだり蜜柑船

十月の海は帆がちに舟勝ちに

十月の雀飛びこむほこら哉

十月の鳶も烏も出でにけり

十月の日和に掛けし晩稲哉

十月や鳩米ひろふ蔵の前

初冬 はつふゆ

初冬の萩も芒もたばねけり

初冬の鴉飛ぶなり二見潟

冬立つや立たずや留守の一つ家

菊の香や月夜ながらに冬に入る

霜月 しもつき

霜月の野の宮残る嵯峨野哉

霜月や奈良の都の卜屋算

霜月や淀の夜舟の三四人

霜月や雲もかゝらぬ昼の富士

師走 しわす

草の根を鼠のかぢる師走かな

うしろから追はるゝやうな師走哉

艦隊の港につどふ師走かな

夕霧より伊左さま参る師走哉

馬糞も見えず師走の日本橋

風光る師走の空の月夜かな

気楽さのまたや師走の草枕

馬の息見えて師走の夜明哉

年末 ねんまつ

行く年の雪五六尺つもりけり

行く年や茶番に似たる人のさま

行く年の四つ橋に灯の往来哉

年暮れぬ太平洋の船の中

歳暮とも何ともなしに山の雲

隠れ家の年行かんともせざりけり

思ふこと今年も暮れてしまひけり

山門や浮世ながむる年の暮

だまされて遊女うらむや年の暮

蜘の巣のかくて今年も暮れにけり

丹青不知老將至

画の駒の馳せて年行く白髪哉

大三十日 おおみそか

摺小木や大つごもりを掻き廻す

梅活けし青磁の瓶や大三十日

漱石虚子来る二句

語りけり大つごもりの来ぬところ

漱石が来て虚子が来て大三十日

漱石来るべき約あり

梅活けて君待つ菴の大三十日

春近 

あかゞりや一寸われて春近し

春待つや只四五寸の梅の苗

寒さ さむさ

大名の通つてあとの寒さ哉

くらがりの人に逢ふたる寒さ哉

薔薇の花の此頃絶えし寒さ哉

水音の枕に落つる寒さ哉

木のあひに星のきらつく寒さ哉

野を行けば乞食の鉦の寒さ哉

山風にほうと立つたる寒さ哉

はつきりと富士の見えたる寒さ哉

旅籠屋の我につれなき寒さ哉

なまじひに人に逢ふ夜の寒さ哉

塀越に狐火見ゆる寒さ哉

雨晴れて風〃凪いで寒さ哉

母病んで粥をたく子の寒さ哉

庭の月昼のやうなる寒さ哉

見上げたる高石かけの寒さ哉

薄暗き穴八幡の寒さ哉

又例の羅漢の軸の寒さ哉

舟ばたに海のぞきたる寒さ哉

谷のぞく十綱の橋の寒さ哉

藤原の出口に寒し牢屋敷

雲なくて空の寒さよ小山越

囚人の頸筋寒し馬の上

仏焚いて仏壇寒し味噌の皿

寒さうに金魚の浮きし日向哉

この寒さ越後の人のなつかしき

寒き日を書もてはひる厠かな

寒き夜や妹がり行けば饂飩売

寒けれど不二見て居るや阪の上

神田橋

石垣や松這ひ出でゝ水寒し

鬼の画に

掛けられて汝に此世の風寒し

壮士

肩を張り拳を握る寒さ哉

素香氏の北海道へ行くを送る

この寒さ北に向いたる別れ哉

漱石東京へ来りしに

足柄はさぞ寒かつたでござんしょう

われも軍隊歓迎会に招かれて

めでたさに袴つけたる寒さ哉

この寒さ君何地へか去らんとす

狼烟見る人の寒さや城の上

昔記山川是今傷人代非

このたびは一人で通る寒さ哉

冬され ふゆされ・ふゆざれ

冬されや水なき河の橋長し

冬さるゝ小店や蜜柑薩摩芋

冬されや焼場をめぐる枳穀垣

冬日 ふゆひ

冬の日の雀下りけり飯時分

冬夜 ふゆよ

冬の夜の稲妻薄し星の中

一月十八日夜

冬の夜の更けてなゐふるともし哉

霜夜 しもよ

金岡の馬静まりし霜夜哉

冬時候雑 

大木のすつくと高し冬の門

音もなし冬の小村の八九軒

冬や今年我病めり古書二百巻

冬や今年今年や冬となりにけり

十夜 じゅうや

旅僧のとまり合せて十夜哉

月影や外は十夜の人通り

御命講 おめいこう

日の入や法師居並ぶ御命講

佐渡へ行く舟呼びもどせ御命講

神の留守 かみのるす

狛犬の片足折れぬ神の留守

臘八 ろうはち

臘八や眠たがる目に雲白し

寒念仏 かんねぶつ

寒念仏に行きあたりけり寒念仏

通るなり又寒念仏五六人

鉢叩 はちたたき

鉢叩き敲きわつたる音すなり

神送 かみおくり

神送り出雲へ向ふ雲の脚

門松売 

眼鏡橋門松舟の着きにけり

年市 としのいち

年の市橋へ出ぬけて月夜かな

年の市十町許りつゞきけり

雨雲の人にかゝるや年の市

馬の尻に行きあたりけり年の市

いそがしや人押しわける年の市

年とる としとる

西山へ年とりに行く一人かな

煤払 すすはらい

煤払の門をおとなふ女かな

煤払や神も仏も草の上

煤はくとおぼしき船の埃かな

煤はいて蕪村の幅のかゝりけり

煤はきのこゝだけ許せ四畳半

煤はらひ又古下駄の流れ来る

大仏の雲もついでに煤はらひ

仏壇に風呂敷かけて煤はらひ

奈良

千年の煤もはらはず仏だち

掛乞 かけごい

掛乞の留守を叩くや竹の門

大阪や掛乞だらけ橋だらけ

餅搗 もちつき

餅搗の烟にぎはふ城下かな

年忘 としわすれ

年忘れ折〃猫の啼いて来る

死にかけしこともありしか年忘れ

我庭の年忘れ草枯れにけり

麦蒔 むぎまき

麦蒔や色の黒キは娘なり

麦蒔や北砥部山の麓まで

爐開 ろびらき

爐開や叔父の法師の参られぬ

巨燵 こたつ

巨燵から見ゆるや橋の人通り

人もなし巨燵の上の草双紙

縫物の背中にしたる巨燵哉

丁稚叱る身は無精さの巨燵哉

押しかけて妾になりし巨燵哉

かりそめの苦説にすねる巨燵哉

みちのくの旅籠屋さびて巨燵哉

昼中の傾城寝たるこたつ哉

老はものゝ恋にもうとし置火燵

漱石来る

何はなくとこたつ一つを参らせん

風呂敷を掛けたる昼の巨燵かな

火桶 ひおけ

文机の向きや火桶の置き處

化物に似てをかしさよ古火桶

火桶張る昔女の白髪かな

湯婆 ゆたんぽ・たんぽ

傾城のひとり寝ねたる湯婆哉

舟に寝る遊女の足の湯婆哉

炭竃 すみがま

松伐つて月炭竈に上りけり

炭売 すみうり

名處の炭売黒く生れける

炭 すみ

鋸に炭切る妹の手ぞ黒き

炭団 たどん

米盡きて炭団たくはふ俵かな

榾 ほた・ほだ

榾たくや檜の嵐杉の風

落武者に驚かされぬ榾の夢

榾の火や雲に理もる木曽の家

冬籠 ふゆごもり

冬こもり達磨は我をにらむ哉

冬こもり金平本の二三冊

冬こもり世間の音を聞いて居る

冬こもりをのこ子一人まうけゝる

冬こもり煙のもるゝ壁の穴

冬こもり顔も洗はず書に対す

冬こもり昼の蒲団のすぢかひに

冬や今年われ古里にこもりけり

五器皿を見れば味噌あり冬籠

雲のそく障子の穴や冬こもり

山も見ず海も見ず船に冬こもり

琴の音の聞えてゆかし冬籠

うら若き妾かゝえて冬こもり

人病んでせんかたなさの冬こもり

なかなかに病むを力の冬こもり

唐の春奈良の秋見て冬こもり

あぢきなや三重の病に冬こもり

蜘の巣の中につゝくり冬こもり

二夫婦二かたまりに冬こもり

商人の坐敷に僧の冬こもり

音もせず親子二人の冬こもり

傾城の文届きけり冬こもり

冬籠書斎の掃除無用なり

達磨賛

冬籠物くはぬ日はよもあらじ

ある山里を思ひいでゝ

一町は山のどん底に冬こもり

頭巾 ずきん

頭巾着て人と話すや橋の上

我親に似てをかしさよ古頭巾

兜着たことは昔に頭巾かな

薙刀に焚火のうつる頭巾かな

すれ違ひ又ふりかへる頭巾かな

赤頭巾人甘んじて老いけらし

頭巾着て女に似たる男かな

蒲団 ふとん

短さに蒲団を引けば猫の声

紙子 かみこ

鐘つきの雲に濡れたる紙子哉

子鼠の尿かけたる紙子哉

網代守 あじろもり

ながらへて八十路になりぬ網代守

暁や凍えも死なで網代守

手凍えて筆動かず夜や更けぬらん

凍 いて

手凍えて筆動かず夜け更けぬらん

霜やけ しもやけ

おちぶれて人霜やけにわぶるかな

霜やけや娘の指のおそろしき

皸 あかぎれ

胼多き皸多き手足かな

あかゞりや傾城老いて上根岸

姑やあかゞりの手の恐ろしき

風呂吹 ふろふき

黒塚や赤子の腕の風呂吹を

風呂吹の口をやかぬぞ口をしき

茎菜 くきな

朝霜や猶青臭き茎菜桶

納豆 なっとう

納豆や飯焚一人僧一人

起きよ今朝叩け納豆小僧ども

薬喰 くすりぐい

戸を叩く音は狸か薬喰

鰒汁 ふぐじる・ふぐとじる

鰒汁心もとなき寝つき哉

鰒汁一休去つて僧もなし

鷹匠 たかじょう

鷹匠の鷹はなしたる荒野哉

冬人事雑 

無精さや蒲団の中で足袋をぬぐ

時雨 しぐれ

新発智の青き頭を初時雨

上人を載する舟ありむら時雨

旅僧の牛に乗つたる時雨哉

白菊の少しあからむ時雨哉

稲掛けて神南村の時雨哉

鶏の子の草原あさる時雨哉

三井寺に颯と湖水の時雨哉

いつの間に星なくなつて時雨哉

大名の柩ぬれたる時雨かな

塩鯛の塩ほろほろと時雨かな

橋は夕日竹屋の渡ししぐれけり

五六艘五平太船のしぐれけり

ひつじ田に三畝の緑をしぐれけり

提灯の見えつかくれつしぐれけり

汽車此夜不二足柄としぐれけり

島守のあらめの衣しぐれけり

土佐の海南もなしにしぐれけり

大仏の鐘が鳴るなり小夜時雨

傾城は知らじ三夜さのむら時雨

火ともしの火ともしかねつむら時雨

月やうそ嵐やまこと初時雨

釣舟やしぐれて帰る鳰の湖

旅人や橋にしぐるゝ馬の上

行きつかねうちにしぐるゝ矢走哉

月出るやしぐるゝ雲の裏手より

花売の片荷しぐれて帰りけり

大和路は時雨ふるらし汽車の覆

しぐるゝや紅薄き薔薇の花

しぐれけり月代巳に杉の上

しぐるゝや上野谷中の杉木立

しぐるゝや隣の小松庵の菊

しぐるゝや右は亀山星が岡

吉原や昼のやうなる小夜時雨

病中

しぐるゝや腰湯ぬるみて雁の声

北白川宮薨御と聞き侍りてそゞろ涙せきあへず金州御在陣の時の事など只まぼろしのごとくに覚えて

しぐるれど御笠参らすよしもなし

何がしにつかはす

しぐれつゝも菊健在也我宿は

病める可全につかはす

初しぐれ君が病ひのまじなひに

謡曲絃上

盤渉にしぐるゝ須磨の夕哉

雲百句の内

京さして山の時雨の迷ひ雲

傾ける傘の裏行く時雨かな

剣に舞へばさつとしぐるゝ砦かな

凩 こがらし

凩や胴の破れし太鼓橋

凩や雲吹き落す海のはて

凩や船沈みたるあたりより

凩やものもうつらぬ窓の月

凩や月の光りを吹き散らす

凩や海へ吹かるゝ人の声

凩を空へ吹かせて谷の家

凩の馬吹き飛ばす広野哉

凩の外は落葉の月夜哉

凩に向ふて登る峠かな

凩や大仏どのは聾なり

凩やよろよろ薄よろよろと

凩や十年売れぬ古仏

凩や鼠の腐る狐罠

凩や鹿の餌売れぬ豆腐殻

凩や鐘引きすてし道の端

凩や號〃として瀧落つる

凩や犬吠え立つる外が濱

ひうひうと凩鳴るや庵の空

妖怪体

古御所や凩更けて笑ひ声

凩や君がまぼろし吹きちらす

十六羅漢図

凩に尖らぬ頭ぞなかりける

から尻に凩つよき広野哉

冬月 

冬の月五重の塔の裸なり

裏山や月冴えて笹の音は何

寒月や猫の眼光る庭の隅

木の影や我影動く冬の月

寒月や吹き落されて岩の間

寒月や石塔の影杉の影

寒月や雲盡きて猶風はげし

寒月や造船場の裸船

寒月や捨子乳に泣く橋の上

雪 ゆき

金殿のともし火細し夜の雪

敷芝や松の下陰雪残る

武蔵野やあちらこちらの雪の山

くるりくるり丸木の舟の雪もなし

峠より人の下り来る吹雪哉

むり向いて塔見あげたる吹雪哉

つらなりていくつも丸し雪の岡

竹藪の梢に遠し雪の山

辻堂に火を焚く僧や夜の雪

兀山の雪にもならであはれなり

二三尺雪積む野辺の地蔵哉

帰るさや初雪やんで十日月

五六軒雪つむ家や枯木立

山里や雪積む下の水の音

音もせずなりぬ吹雪の馬の鈴

高縄と知られて雪の尾上哉

古関や雪にうもれて鹿の声

大仏の片肌雪の解けにけり

学寮へつゞくや雪の道一つ

杉垣の上に雪持つ小家哉

阪道や吹雪に下る四手駕

吹き乱す吹雪の鷹の鈴暮れたり

初雪の大雪になるそ口をしき

雪ながら山紫の夕かな

夜の雪やせわしく叩く医者の門

雪雲の空にたゞよふ裾野哉

初雪や橋の擬宝珠に鳴く鴉

初雪のはらりと降りし小不二哉

雪ながら氷る小道や星月夜

雪積むや次第下りの屋根続き

雪空の一隅赤き入日かな

松の雪われて落ちけり水の中

病中

庭の雪見るや厠の行き戻り

送別

雪の旅おもしろからんさりながら

霰 あられ

炮烙に豆のはぢきや玉あられ

大仏のまじろきもせぬ霰哉

薙刀を車輪にまはす霰哉

石橋の上にたまらぬ霰哉

岩関の岩にけし飛ぶ霰哉

旅僧の笠破れたる霰哉

猪の人をかけたる霰かな

拾舟の中にたばしる霰かな

ものすごき音や霰の雲ばなれ

すさましや霰ふりこむ鳰の海

暁や霰のたまるおとし穴

大粒な霰ふるなり薄氷

逢阪や霰たばしる牛の角

霙 みぞれ

霙にもなりぬべらなり宵の雨

涸れ沼の泥にみぞるゝ夕かな

みぞるゝや水道橋の薪舟

冬雨 ふゆのあめ

古濠やだらりだらりと冬の雨

霜 しも

鍋の霜日の短きも限りかな

朝霜に日の昇りたる城下かな

朝霧や不二を見に出る廊下口

初霜に負けて倒れし菊の花

初霜や鏡にうつる鬢の上

橋の霜雀が下りて遊びけり

暁や御庭の霜の拾篝

尼寺の錠かゝりけり門の霜

きやべつ菜に横濱近し畑の霜

腰の疾にかゝりて

起せども腰が抜けたか霜の菊

中野逍遥を吊ふ

世の中を恨みつくして土の霜

冬日 ふゆひ

冬の日やわつかの雲のすきに入る

冬の日や馬の背中に落ちかゝる

冬の日の落ちて明るし城の松

冬の日のとゞかずなりし小村哉

枯野 かれの

辻堂のあとになりたる枯野かな

満月の半分出かゝる枯野かな

舟曳の斜めにそろふ枯野かな

鳥飛んで荷馬驚く枯野かな

辻駕に狐乗せたる枯野かな

馬見えて雉子の逃げる枯野栽

筵帆の白帆にまじる枯野哉

村人の都へ通ふ枯野哉

乞食の鐚銭拾ふ枯野哉

鳶一羽はるかに落つる枯野哉

めづらしく女に逢ひし枯野哉

汽車あらはに枯野を走る烟哉

五六人行くや枯野の一つ道

冬田 ふゆた

あぜ許り見えて重なる冬田哉

駒込の阪を下れば冬田かな

汽車道の目標高き冬田かな

科頭に烏のとまる冬田かな

汽車道の一段高き冬田かな

見下せば晩稲の残る冬田哉

菜畠もまじりて広き冬田哉

冬川 ふゆかわ

冬川に鴨の毛かゝる芥かな

冬川の河原ばかりとなりにけり

橋杭に残る藻屑や冬の川

雲絶えて源涸れぬ冬の川

水筋は涸れて芥や冬の川

冬の水 ふゆのみず

雪堕ちて泥静まりぬ冬の水

氷 こおり

古濠の小鴨も居らぬ氷かな

獺の橋裏わたる氷かな

水鳥の小舟に上る氷かな

兀山をめぐらす浦の氷哉

崖道を氷室へはこぶ氷哉

しんとして榛名の池の氷哉

溝川に竹垂れかゝる氷かな

刈株に水をはなるゝ氷かな

人住まぬ屋敷の池の氷かな

はりはりと白水落つる氷かな

ひゞわれる音や旭のさす田の氷

四辻や打水氷る朝日影

鶺鴒の刈株つたふ氷かな

小夜更けて氷を叩く隣かな

暁の氷すり砕く硯かな

氷柱 つらら

旭のさすや檐の氷柱の長短

霜柱 しもばしら

土ともに崩るゝ崕の霜柱

枯れ盡す菊の畠の霜柱

鳰 にお・かいつぶり

潮や渺〃として鳰一つ

橋ぎはへ流れて来たか鳰

薄氷を砕いて鳰の浮きにけり

鴨 かも

鴨啼くや上野は闇に横はる

古池や凍りもつかで鴨の足

鴨は見るばかり味噌汁酒の燗

搦手や昼凄うして濠の鴨

内濠に小鴨のたまる日向哉

蓮枯れて氷に眠る小鴨哉

千鳥 ちどり

風に崩れ月に砕けて鳴く千鳥

浦風にまた舞ひ戻る千鳥哉

灯も見えず闇の漁村のむら千鳥

猪牙借りて妹がり行けば川千鳥

千鳥飛んで雲うつくしき夕哉

鴛鴦 おしどり・おし

根岸

迷ひ出でし誰が別荘の鴛一羽

木兎 みみずく・つく

世の中は木兎の耳のなくも哉

鰒 ふぐ

鰒くふて悪女を夢に見る夜哉

鰒も啼けこゝはきのふの船軍

乾鮭 からざけ・からさけ

乾鮭に鶯を待つ裏家哉

乾鮭のつら並べたる檐端哉

鯨 くじら

百艘の舟にとりまく鯨哉

冬蝿 ふゆのはえ

冬の蝿火鉢の縁をはひありく

うとましや世にながらへて冬の蝿

病に臥して

我病みて冬の蝿にも劣りけり

海鼠 なまこ

引汐に引き残されし海鼠哉

蠣 かき

引汐や岩あらはれて蠣の殻

紅葉散 もみじちる

目もあやに紅葉ちりかゝる舞の袖

山探し樫の葉落ちる紅葉散る

門前の小溝にくさる紅葉哉

落葉 おちば

狼の墓堀り探す落葉哉

猪の夜たゞがさつく落葉哉

舞ひながら渦に吸はるゝ木葉哉

堀割の道じくじくと落葉哉

谷底にとゞきかねたる落葉哉

月の出やはらりはらりと木の葉散る

古家や狸石打つ落葉の夜

泉水に落葉のたまる小舟哉

古池に落葉つもりぬ水の上

窓の影夕日の落葉頻り也

落付きの知れぬ木の葉や風の空

二三枚落葉沈みぬ手水鉢

関守の木の葉燃やすや猫火鉢

吹き下す風の木の葉や壇かつら

庵寂びぬ落葉掃く音風の音

病起始めて門を出づ

はらはらと身に舞ひかゝる木葉哉

神田の銀杏樹を見て

落葉して北に傾く銀杏かな

落葉して鳥啼く里の老木哉

冬木 ふゆき

汽車道に冬木の影の並びけり

ことごとく藁を掛けたる冬木哉

真間寺や枯木の中の仁王門

冬木立 ふゆこだち

冬木立瀧ごうごうと聞えけり

絶壁に月かゝりけり冬木立

田の畦も畠のへりも冬木立

岡ぞひや杉の木まじり冬木立

煙突や千住あたりの冬木立

山門を出て八町の冬木立

片側は杉の木立や冬木立

門前のすぐに阪なり冬木立

四辻や東芝山冬木立

雲かくす山陰も無し冬木立

横須賀や只帆檣の冬木立

白帆ばかり見ゆや漁村の冬木立

夕栄や鴉しづまる冬木立

枯柳 かれやなぎ

橋もとや厠のそばの枯柳

まつち売るともし火暗し枯柳

古橋やいぶしこぶしの枯柳

辻〃のともし火赤し枯柳

枯柳桟橋朽ちて舟もなし

不忍池

枯柳三味線の音更けにけり

山茶花 さざんか

山茶花を雀のこぼす日和哉

山茶花のこゝを書斎と定めたり

板塀や山茶花見ゆる末ばかり

板塀に山茶花見ゆる梢哉

山茶花や窓に影さす飯時分

山茶花の散る裏門や舘船

茶花 ちゃばな

藪陰に茶の花白し昼の月

枇杷花 びわのはな

枇杷咲くや寺は鐘うつ飯時分

石手寺

山門や妙なところに枇杷の花

室の梅 むろのうめ

咲いたとてそれがどうした室の梅

早梅 そうばい

金杉や早梅一枝垣の外

寒椿 かんつばき

寒椿黒き仏に手向けばや

帰花 かえりばな

帰り咲く八重の桜や法隆寺

なかなかに咲くあはれさよ帰り花

冬枯 ふゆがれ

唐辛子妹が垣根も冬枯るゝ

古堀や水草少し冬枯るゝ

冬枯や奈良の小店の鹿の角

冬枯や烏のとまる刎釣瓶

冬枯や石臼残る井戸の端

冬枯や木もなき堤馬帰る

冬枯れて森の堺の柵長し

冬枯や馬の尿する原の中

冬枯の中に小菊の赤さかな

冬枯や鏡にうつる雲の影

冬枯るゝ土橋の縁の小草かな

冬枯や三の台場の高燈籠

冬枯や童のくゞる枳穀垣

仁王門の図に

冬枯や鳩驚いて屋根の上

冬枯やともし火通ふ桑畑

枯葎 かれむぐら

枯れ盡す葎の底の小松かな

枯れ盡す葎の底の小笹かな

葎枯れて雲わき起る石のあたり

草枯 くさがれ

草枯や雲にもうとき三笠山

草枯や堀割崩える二三間

草山の奇麗に枯れてしまひけり

草枯れて南大門未だ建たず

草枯や鷹に隠れて飛ぶ雀

枯菊 かれぎく

白菊の黄菊の何の彼の枯れぬ

菊枯るゝ南の窓ぞあたゝかき

垣朽ちて小菊枯れたり妹が家

枯菊に着綿程の雲もなし

幽霊に似て枯菊の影法師

露草枯 つゆくさかれる

野菊残り露草枯れぬ石の橋

枯蘆 かれあし

枯蘆や鶺鴒ありく水の隈

枯蓮 かれはす

蓮の実の飛ばずに枯れしものもあらん

枯薄 かれすすき

古塚に行きあたりけり枯薄

枯尾花水なき川の広さかな

尾花枯れて石あらはれぬ墓か否か

枯尾花風吹き絶えて月もなし

枯薄こゝらよ昔不破の関

枯芭蕉 かればしょう

なかなかに画師の庵の枯芭蕉

音のしてある夜倒れぬ枯芭蕉

枯芝 かれしば

枯芝に松緑なり丸の内

両側の枯芝高き小道かな

水仙 すいせん

水仙に黄檗の僧老いにけり

水仙にさはらぬ雲の高さ哉

水仙のいつまでかくて莟かな

水仙は只竹藪に老いぬべし

水仙に蒔絵はいやし硯箱

水仙にわびて味噌焼く火桶哉

古寺や大日如来水仙花

石蕗花 つわのはな・つわぶきのはな

日あたらぬ厠の陰の石蕗の花

明家や厠の陰の石蕗の花

日のあたる鍋の氷や石蕗の花

寒菊 かんぎく

上人のたよりまれなり冬の菊

寒菊や修覆半ばなる比丘尼寺

古沓や人おちぶれて冬の菊

薪をわりかけたる画に

寒菊の上にもの置く家陰哉

冬菊や下雪隠へ行く小道

冬牡丹 ふゆぼたん

尼寺に冬の牡丹もなかりけり

冬牡丹尼になりたくは思へども

葱 ねぎ

滄浪の水澄めらば葱を洗ふべし

ある夜葱筑波颪に折れ盡せり

古里に根深畠は荒れにけり

葱売の両国わたる夕かな

冬菜 ふゆな

根岸郊外二句

竹立てゝ冬菜をかこふ畠かな

水引くや冬菜を洗ふ一ト搆

前のページへ 寒山落木  4 次のページへ

Yahoo! カテゴリ掲載サイトです

旅行、観光 > 旅のノウハウ

“のら猫をかゝえて寝たる寒さ哉”この句をメールに添付をクリックで子規の俳句を添えたメールが送れる!

旅のパラメーター

今年のあなたのディスティネーションは…

都道府県ランキング

自分で作る47都道府県ランキング…